ショートストーリー <P4.>
※この物語に登場することは、すべてフィクションです。
「運命の輪」 (同人誌「睡蓮」4号に掲載)
---つづき---
「どう言う事ですか?何故、私のせいだと?」
「あなたは、5歳の時に遭った、バスの事故を覚えていますか?」
バスの事故?
5歳・・・幼稚園児だったころだ・・・あっ・・・
幼稚園のバス旅行。
楽しかったその帰り道、園児を乗せたバスはスピードを出し過ぎていたのか、カーブを
曲がりきれず、ガードレールを突き抜け、20メートルもの崖下に転落。
運転手をはじめ、引率していた先生、そして、私以外の園児全員が死んでしまった。
それは、記憶の奥深くにしまい、鍵をかけ、二度と思い出さないように封印していた悲
しい出来事だった。
「奇跡的に私だけ助かった・・・」
そうつぶやいた私の言葉を、運命の輪の管理人は即座に否定した。
「それは違います。奇跡など起こるケースでは無かった。あのとき、あなたも死ぬはずだ
ったのです。なのに、自身の持つ運の強さで助かってしまったのです。」
確かに、私は小さな頃から運だけはいい。
両親からもよく聞かされていたし、大人になった今でも、そう感じるところが多々ある。
先月、アパートの階段から転げ落ちそうになっていたとき、たまたま、ジャケットのポケッ
トが手すりの端にひっかかって助かったのだ。
「でも、だからといって、どうして、この地下鉄事故と関係があるのですか?」
「人間一人一人には、〔運命の輪〕と言うものがあって、それぞれ輪の寿命が決まって
います。例えばあなたの場合、運命の輪の寿命は五歳。あのバスの事故で死ぬはず
だった。しかし、あなたは生きている。死ぬはずの人が生きていると、運命の輪に歪み
が生じます。今まで、こんなにも、運命の輪に逆らって生きている人は居なかった。だ
から、管理人のわたくしも、最近まであなたの存在に気付かなかったのです。運命の
輪は歪みを修復するため、ずっとあなたの命を奪おうとしていたはず。でも、あなたは
不幸に見舞われるたびに、自身の運に助けられ、今日まで生き延びてきた。そして、
歪みが大きくなった運命の輪は、何の関係も無い人達を巻き込んでまで、あなたを死
に追いやろうとしているのです。」
---つづく---
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