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ショートストーリー <P6.>最終回

※この物語に登場することは、すべてフィクションです。

「運命の輪 (同人誌「睡蓮」4号に掲載)


---つづき---


そんなことがあってからは、会社からほど近い場所にアパートを借り、徒歩か自転車で

勤している。

そのうえ、人ごみを避けるために、わざわざ遠回りし、裏道を歩くようになった。

大通りとは道筋がひとつ違うだけなのに、古い建物ばかりで、大げさに言うと、昭和に

タイムスリップしてしまったかのようだ。

朝も早いことからか、すれ違う人も殆んど無く、とても静かで時間の流れが違うように

じる。

それに、この商店街のアーケードを通るとホッとするのだ。

多分、小さい頃に住んでいた町の雰囲気に似ているからかもしれない。

今では、シャッターを締め、看板を外している店が目立つ。

きっと、郊外型のショッピングモールが出来るまでは、ここも賑わっていたのだろう。

アーケードを抜け、50メートルほど行くと、左手に木造2階建ての金物屋があり、そ

を曲がって大通りに出る。

そこから会社はもう目と鼻の先だ。

いつものように金物屋を曲がりかけたとき、隣の軒先にキラリと光る円い物を見つけた。

おっと、これはもしかして?

自転車を降り、小走りで近付き、〔光る円い物〕を手に取って見た。

「なーんだ。ゲーム機のコインじゃないの。やーね。」

つぶやきながら、誰も居ないことを確認するように、ちらっと辺りを見回した。

恥ずかしくて、苦笑しながら、そそくさと元あったところにコインを戻す。

それと同時に、後で物凄い音がした。

何か落ちて来た音。

それも大きな物だ。

私は、恐る恐る振り返った。

「う、うそ。」

なんと、金物屋の大きな看板が落ちていたのだった。

もし、このコインに気を取られていなかったら、私の上に落ちていたかもしれないってこ

と?

ヘナヘナと地面に座り込む。

しばし呆然。

「大丈夫ですか?」

その声で、ふと我に返る。

金物屋から、店主らしき男が駆け寄って来た。

「すみません。私は、ここの店主ですが、お怪我はありませんでしたか?」

「えぇ・・・大丈夫です。」

頷きながら、小さな声で答えた。

「でも、お嬢さん、顔、真っ青ですよ。」

店主は、私の顔を心配そうに覗き込むと、店から背もたれの付いた木の椅子を持って

来た。

私に座るように促す。

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。ただ、びっくりしただけですから。」

私は、笑顔で、スカートと足についた土を手で払いながら立ち上がった。

「びっくりさせて悪かったね。実はこの看板、老朽化していたもんで、今日の午後には取

替える予定だったんですよ。お嬢さんが真下にいなくて、本当に良かった。」

店主は、私の笑顔に安心したのだろう。

そう言うと、地面に落ちて変形した看板を両手で引きずりながら、店の中へ入って行っ

た。


いつまでこんなことが続くのだろうか。

運がいいのも考え物だわ。

それにしても、『運』と言うのは『運命』より強いのね。

こうなったら、とことん私の『運命の輪』に付き合うわよ。

負けてたまるもんですか。

ぐっと手を握り締め、拳を作る。

心の中で自分に気合を入れた。

チラッと、腕時計に目をやる。

針は9時10分前を指していた。

「やばいっ。遅刻だ!」

慌ててバックを掴み、自転車に跨り、風を切って走り出した。


---Fin---


以上でお話は終わりです。

友達が代表をしている、同人誌『睡蓮』に誘われて、20年ぶりにペンを取りました。

6日間に分けて書きましたが、いかがだったでしょうか?

ご感想をいただけると、ありがたいです。

それから、このショートストーリーを掲載した『睡蓮』では、只今会員を募集しています。

興味のある方は、どうぞ声をかけてくださいねm(_w_)m

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コメント

毎回次はどうなるのかなとわくわくしながら
最後まで読ませていただきました。

感想はちょっと恥ずかしいので
直接メールするね。

投稿: ちかたんご | 2005年7月28日 (木) 18時05分

ちかたんごちゃん、読んでくれてありがとう。
感想のメールもありがとう。
これを読んで何かを感じてもらえたならばとっても嬉しい(^▽^)

投稿: かずね | 2005年7月29日 (金) 00時52分

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